【The LastONE外伝】青龍の舞姫 

Lusone%28%e7%81%bc%e7%86%b1%e7%89%88%29 シルネオンさんからのエピソード

エミルの過去の物語。家族のために、彼女が踊り子となって稼ぎに出ることを決意し、そして青龍の舞姫の名を冠するまでを紐解いていく。


―蒼白の光 舞い踊る焔 想いは 波濤となりて 暁待つ夜に踊らん―

青々とした夜空の元、私は響き渡る拍子と共に舞っている。
青龍の舞姫…それが私の名前。暁を待つ刻、青き龍の如く
壮大かつ華麗に舞台を踊る…二つ名の所以である。


私の家族…レ・ファルミネンス家は元々裕福な家庭ではなかった。
とはいえ、決して贅沢さえしなければ生きていけるわけであって、明日の食料が
確保できるかという問題ではなかった。日用雑貨・書物に関して手を出せるか、
と言われるとそれは難しかった。特に、私の3つ下の妹ライラには辛い思いを
させたくはなかった。

というのも、母メリリアは私が5歳になってから身体に自由が利かない身に
なってしまい、ただでさえ贅沢が出来ない家計に拍車をかけていたのだ。
母は自分のこの身体を申し訳無く思っているが、家族は全く障害と思わず、
普通の家族として接してきた。そんな家庭である。私はどうすれば少しは
楽に出来るであろうかと、模索し続けていた。青い果実のようにまだ若い
私やライラを正規的に雇ってくれるところはなかった。

そこで私は思いついた。…私の才能、舞の才能を活かせば…!そう思った。
富裕層の晩の催しに参加することで、お金を稼げる…同じダンス仲間から
聞いたことがある。だが、あの大人達が何をしでかすかは分からない。身の
安全は完全に保障できないということだ。当然、親の身にもなれば許すわけ
にはいかないことだろう。

そう考えながらも、私は話を切り出すことにした。…母に、私の思いを伝えなければ。

「お母さん、いいかな?」「どうしたの?エミル…」普段とは違う空気であることは、
母もすぐに勘づいていた。
「お母さん、聞いて。…私、夜は稼ぎに出たいの。」「稼ぎ…?そんなところがあるの?」
「…いいえ、何処も私を雇ってはくれないわ。でも、ひとつだけ方法があるの」
この言葉が終わると、しばらく沈黙が続いた。自分の身のこともあって、少々なりとも
躊躇が絡んでいた。この発言が母を…私自身を傷つけるかもしれないと。だが、
思いを伝えぬ限りは、前に進まない。一呼吸して、私は言葉を続けた。

「…毎晩、夜の宴があるの、知ってる?私、そこで稼ぎに出る。」「何ですって…!?」
予想通りの答えだった。母は驚きのあまり声を上ずらせて言葉を発したが、それも
自然なことだと分かっていた。いつもの優しい顔は変わり、一層厳しい顔になった。
母のこのような顔は、生涯に1度か2度しか見たことがなかった。
「エミル、冗談は止めて頂戴!確かに稼ぎは多いかもしれないけどね、何されるのか
分からないのよ?…あなたの言う稼ぎ…踊り子稼業のことでしょう?」母は鋭かった。
「そうだよ。お母さんが私の身を案じてくれるのは分かってる。それは嬉しい。でもね、
私だって家族を支えたい…せめてライラには、楽をさせてあげたいの。」私の目からは
少しばかり涙が溜まっているような気がした。泣けば許されるというわけではない、
家族の将来を案じていると自然と涙が溢れそうになるのだ。
「…ごめんね、エミル。私がこんな身だから…そうじゃなかったら、今頃エミルにも…ライラにも…
こんな苦しい思いはさせずに済んだのに。…エミル、親の務めは子の安全を守ることよ。
…エミルのことを信じてないわけじゃないわ。親として、どうしても行かせたくないの。」
母も、涙を流しながらそう言った。母の言葉に、いつの間にか私の方も涙を堪えられなくなっていた。
「…信じて。私の身は、私で守れるから…。…お母さんとライラのために…どうしても必要なの。
…お願い…行かせて……」私は自然と、母に抱きついて嘆願していた。母は泣いて抱きついている
私の頭を優しく撫でながら言った。「…分かった。エミル、行っていいわよ。…お母さん、信じてみる。」
「…お母さん…!!…ぐすっ……ありがとう……」この時ほど、母の暖かさを感じたことはなかった。
感情が高ぶるあまり、母の服に強くしがみついてしばらく泣くことを止めなかった。
「…相変わらずエミルは泣き虫さんね。…たくさん泣いて、強い子になるのよ……。」


次の日の夜、母から許しを得て、私は夜の宴のある方を探すことにした。アルヴァの夜は対極的だった。
内陸の方は静まりかえっていたが、港町では酒場や宴の会場で賑わっていた。
正直、一人でこんなところを歩くことは慣れていなかったし、少し恐くもあった。
そんな時、一人の男が後ろから声を掛けてきた。驚きのあまり、身体をびくっとさせて
後ろを向いた。がたいが良く、強面な印象の男だった。

「お嬢ちゃん、一人で何やってんだ?子供が来る場所じゃないぜ、変な奴に捕まる前に帰りな。」
「すみません…」彼の正論に、心を痛めた。しかし、この機を逃すわけにはいかなかった。
「あ、あの…」「何だ?」「この辺りで…宴をやっているところ…知りませんか?」
私が発した言葉は、常人なら普通ではないだろう。男も、少し困惑気味だった。
「…もしかして、親でも探してるのか?」
「いえ…今夜の催しで、舞をやってるところを探していて…」「…その心は?」
「…私を、舞台で踊らせてくれる…出してくれる場所を探しているのです。」
男はきょとんとした。彼女が何を考えているのか、男には理解に苦しんだのだ。
「…本気か?」「…本気です。」「…試しに踊ってみろ。」「…はい。」
男から少し離れたところで、私は試しに踊ってみた。拍子がない分踊りにくさは
あったが、水の流れの如く、優雅に…壮大に踊ってみせた。気がつけば、
男は唖然とした表情で踊りに見とれていたのだ。

「…こいつはすげぇ。お嬢ちゃん、あんた何者だ?」男は私に近付いて話を聞いた。
「…私はエミル・レ・ファルミネンス。賤しい身のフィレオール族です。」
「…こいつは運がよかった。エミル、俺はデガロ。ちょうど今、今夜の催しの人を探していてな。
…決まりだ。あんた、今夜うちでやってみないか?」まさかの出会いであった。
「はい、喜んで…!」「よし、それじゃあ案内してやるから俺について来い。」


約束通り連れて来られたのは、蒼白の石膏柱のある野外ステージだった。そこには
沢山の人たちが催しに湧いていた。実に賑やかである。そんな宴の会場の裏には
テントが張ってあり、そこに案内された。デガロは入って行くと衣装のある方へと
消えていき、多くの衣装を持って来た。
「エミル、多分これがあんたに馴染む衣装だ。ここから好きなのを取っていきな。
今のあんたの衣装じゃ、いささか地味だからな。」そこには踊り子の衣装が何着かあった。
ほとんどが派手なものであり、着るには恥ずかしいものが多い印象ではあった。
かけてある衣装を取っては鏡でその姿を映し、着ていく衣装を絞っていった。

最終的に選らんだのは、青と黒を基調とした、他と比べて露出の少ない衣装だった。
「デガロさん、これ使って…いいですか?」「おう、あそこに更衣部屋があるから着替えてくれ。」

しばらく時間が経過して、私は出て来た。部屋の前で待っていたデガロの目は、まるで高価な宝
でも見ているような顔だった。彼にとっては、想像以上の美しさだったということが分かる。
「あんた…想像以上だな…見ている俺が恥ずかしいぜ……」デガロは逆に頬を赤くしていた。
「っと、それじゃあ舞台まで案内するぜ。」私はデガロに連れられ、また舞台の前へと戻ってきた。
高鳴る鼓動で熱く感じると共に、夜風が露わになった肌を触る、形容し難い感じだった。
胸を押さえ、深呼吸をしながら緊張を解す。この緊張は、並のものではないことはよく分かっていた。
今踊っている人の舞が終わり、拍手喝采が響き渡る。成功させてみせる、と自分に強く言い
聞かせていた。

観衆の拍手喝采が止むと、デガロは私の背中を押した。次は私の番…!
「エミル、あんたの舞を見せてやれ!」「はい…!」

私が入場してくると共に、観衆達は驚きの声を漏らしていた。ここまで若く、美しく…
そして堂々とした姿の踊り子はそうそう見ないからだ。私の足取りは拍子と共に
鳴り響き、なびく巻布は風と共に踊り、青く燃える炎は私の動きと共に
自然と踊っているようにも見えた。いつの間にか、妖艶なその舞に見とれる者は
拍子を打つのを忘れ、ただただ踊りに釘付けになっていた。蒼白の月の光、
舞い踊る焔、身体と共に揺れ動く影は、まさに口にするには憚られる美を形成していた。

…舞が終わり、最後のキメをこなすと観衆は立ち上がり、盛大な拍手喝采を上げた。
強く打ち付ける鼓動、肩を以てする息、沸騰するように熱い身体は、止めどない
雨の如きそれに打たれていた気がした。私が一礼をして退場してもなお、それは
しばらく止むことを知らなかった…。

「よっ、青龍の舞姫!!」ある男は声高らかに言った。初めは皆、驚いた顔をした。
しかしそれにつられてその名を呼ぶ者が徐々に増えてきた。

「青龍の舞姫!!」

私は嬉しい気がした。報酬を貰うよりも、自分にとって価値のあるものを得たからだ。
異名を授かることが踊り子にとって名誉であることは知っていた、しかしそれよりも
ずっと前の段階、自らを…自らの舞を認めてくれる存在に明るみを感じた。
そしてそれこそが、家族のために舞うことの後押しとなってくれた…。

『青龍の舞姫』、若き舞姫は自らの才を開花させ、暁を待つ夜に踊る龍の如し。

Fin.


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