【The LastONE外伝】断罪者の牙 

Lusone%28%e7%81%bc%e7%86%b1%e7%89%88%29 シルネオンさんからのエピソード

とある時代、エクテイン連合国はアライアン連合国に宣戦布告を宣言した。ルベラとレミリアは起こるであろう戦乱を避けるべく、国を出ることを決意する。


俺の故郷エクテイン連合国は、隣国アライアン連合国によって
「新アライアン」として改められ、新たな道を歩んでいた。
その道はあるべき道、すなわち平和。誰もがそう思っていた。
だが、エクテインは違った。彼らは独自の国家として立つため、
アライアンに反抗し、2国間の契約を破棄しては宣戦布告を
決めていた。…少なくとも、俺たちもその戦いに巻き込まれることになる。

俺とレミリアは戦いから避けるため、2人で国を出ることにした。
気の知れぬペレイン族がいつ戦いを勃発させるかは分からない。
せめて妹レミリアだけでも…彼女だけはここから逃がしたかった。
灯りもまともにない夜道の国境前。ただ、満月が夜空を照らしていた
ため、さほど障害になるほどの暗さではなかった。

そんな夜道を、俺とレミリアは徘徊していたわけだ……


国から出ることを決めてから何時間か経っただろう。太陽は完全に
沈んでしまっていた。そして何時間歩き続けたことだろう。
俺の足は既に痛みを訴えているのを感じた。少なくとも、レミリアは
俺よりも辛いだろう。きりのいいところで、一休みを極めたかった。
そう思いながら歩いていくうちに、俺たちは川の近くまで来ていたため、
一休みするには相応しいところまでやって来ていた。

「レミリア、少し休憩するか。」「そうだね。」俺とレミリアは腰を下ろす。
「はぁー、大分歩いたよね。もうそんなに歩きたくないなぁ……。
お兄ちゃんは大丈夫?足、痛くない?」
「あぁ、大丈夫だ。」自分もつらい筈だが、俺の心配までしてくれるとは、
その健気さに今日の疲れも一気に回復するように思えた。
「レミリア、今から水を汲みに行く。疲れたろう、ここで待っていてくれ。」
「いえ、私も行く」「よせ。無闇に外に出て憲兵に捕まったらどうする?」
エクテインの掟として、国境を越えるためには一度憲兵を介さねばならない。
そこから明確な理由と期間を告げなければ、罪に問われる。
ここは国境に近い、国から逃げる俺たちにとってこの場所は厄介だった。
一緒に連れていきたい気はしたが、やはりリスクを考えればそうはいかない。
「すまない、レミリア。ここで待っていてくれ。すぐ戻ってくる。」
そう言って、俺は川のある方へと向かっていった。

こうしてしばらくの間一人取り残されたレミリア。彼女は疲労によって
ぐったり木に寄りかかっていた。このまま、ぐっすり眠れそうではあった。
少しうとうとしていると、目の前に何やら人の姿があった。
「ん…おにい…ちゃん……?」よく見てみると、彼は兄ではなかった。
ローブを纏った謎の男、彼はいきなりレミリアの腕を掴み引っ張った。
それに対してレミリアは必至に抵抗する。だが、力が入らない…
「…きゃっ!?…やっ…やめ…離し…て……!…た、助けて…お兄ちゃ…んっ!!?」
男は抵抗するレミリアの首の裏を手刀で叩き、一瞬で気絶させた。
兄に助けを求めて叫ぶも虚しく、静寂の夜道にただこだまするだけだった。
…レミリアは何者かによって強引に連れ去られていったのだ……。

…少し離れたところにいた俺でも、レミリアの叫びが微かに聞こえた。
「…レミリア!??」俺は急いで元の場所へと戻った。そこには誰もいなかった。
「おい、レミリア!?…何処にいるんだ、返事をしてくれ!!レミリア!!!」
ふと見ると、梢にひとつの紙切れが見えた。俺はそれを手に取り、開いてみると
何か文章が書かれていた。同時に、地図のようなものまである。
「…『お前の妹は預かった。解放して欲しくば来い。お前の身柄と引き替えだ。
―運命に抗うなかれ』…よくもレミリアを……!!待っていてくれ、今行くぞ…!」
俺はすぐさま地図に示された方へと向かった。これが敵の思うつぼなのかも
しれない。だが、妹が何をされるか分からない以上、向かわねばならない。

そうして、俺は地図に示された通り、少し広い場所までやってきた。
するとそこには、何人かの人が横に並んでいた…よく見たらそれは
エクテインの憲兵の姿をしていた。さらに一人、人影が見える。
…身体を揺さぶっている姿は、抵抗しているようにも見えた。

「んっ…んんっ……!」そこに見えたのは…くつわをかまされたレミリアだった。
「レミリア…!!」「んんっ……!」「待ってろ、すぐ助けに行く……!」
俺はすぐさま行動へと移った。早く解放せねば…
「動くな、何者だ!?」突然、憲兵たちの方から声が上がった。俺はすぐさま銃を
取り出し、憲兵に向けた。
「俺はレミリアの兄だ。約束通り、レミリアを解放しろ!」
緊張が走る。引き金を引かんとする指も、一層重く感じられた。
「なるほど、お兄様のご来場か。…おい、くつわを取れ。」
憲兵は二人で言葉を交わさせるべく、レミリアからくつわを取った。

「はぁ…はぁ……お兄ちゃん……!」「レミリア…!…くっ」
再び、グリップを握る手に力を入れる。いつでも彼らを撃ち倒せるように…
「銃を捨てろ!さもなくば、この女の命はない……!!」
「きゃっ…!」憲兵はレミリアを強引に引っ張り、喉元にナイフを突きつけた。
「さぁどうする、早くしろ!」「くっ…!」俺はその言葉に、引き金を引く指を緩めた。
あれが、国を守るための憲兵のすることか…何と卑劣なことか。
だがもし今ここで憲兵達を倒そうとするなら、ただちにレミリアは殺されるだろう。
正直、俺がどうなろうと関係なかった。レミリアが無事でいてくれるのであれば…
レミリアが助かる僅かな可能性があるならば、それに賭けたかった。

「…分かった、銃は捨てる。俺は好きにしろ、だがレミリアは解放しろ。」
しばらくの静寂の末、俺は手から銃を放した。そうすることで、レミリアは解放される。
その言葉を信じ、穢らわしい大人達に屈服することで…
俺の銃エクスパニッシャーが地面に落ちると共に、憲兵はレミリアを
乱暴に突き飛ばした。俺から憲兵まではそれなりに距離がある…。

「そらっ、約束通り返してやるぞ!」

俺はレミリアに駆け寄ろうとした。まずは苦しい思いをしてきた妹を抱きしめた
かった、ただその一心が俺を突き動かした。
…だが、俺のその理想は尽く砕かれることになってしまった。…憲兵側の、
ローブを身に纏った怪しげな男が、レミリアを突き飛ばすと同時に真っ先に
レミリアの前にやって来たのだ……手には充分な刃渡りのある剣が……!!

ドスッ…

静寂の中、レミリアの胸を突き刺す鈍い音が鮮明に聞こえた。
彼女の胸に…剣が……貫通している……!!

それを見た俺はすぐさま地に落ちた銃を拾い、その男を打ち抜こうと考えた。
…だが、激痛に苦しみ、多量の血を流しているレミリアを見ていると
手に力が入らなくなり、銃を拾うことが出来なくなってしまった……。
「あ…あぁ……!!」
「…ふっ。…これでいい。」そう言って、男は血に染まった剣をレミリアから抜き、
俺の方へと突き飛ばした。その瞬間に、俺はその男の顔が見えた気がした。
あの顔…それなりに年を食い、余裕に溢れた顔を浮かべている……!!

「レミリアアァァァッ!!!!」
俺はすぐさまレミリアの方へ駆け寄り、倒れゆくレミリアと共に倒れた。
「レミリア…レミリア……!!」「はぁ…はぁ……お兄…ちゃ………」
「レミリア…おい、しっかりしろ!…早く止血を……」
レミリアの顔は、俺が思った以上に顔色が悪かった。胸から流れ出る真紅の血…
次第に弱くなっていく息…そして冷たくなる身体…夜の闇の中でも、よくわかった。
「…おにい…ちゃん……。……よかった…きて……くれたん……だね……?」
「レミリア…!俺は馬鹿だった…あの時お前を一人にしてしまったせいで……」
「…いいんだよ……。…わたし…お兄ちゃんが…さいごに…いて…くれたから……」
「………!!」俺は聞き逃しはしなかった。最期…?何を悟っているんだ…?
「じょ…冗談はよしてくれ!レミリア、お前はまだ生きている!!俺がお前を」
…俺は微かな希望を持っていた。まだ助かる…愚かな希望とも言えることを…。
されど、もう遅かったのだろう。意識して顔を見たが、まるで精気がなかった。
いくら目覚めさせようとしても目を開かず、身体も動きはしなかった。

「そんな…おい、レミリア…レミリア…!!」
「ぐっ…ぐああああぁぁぁ!!!」慟哭が、静寂に包まれたこの場を覆い尽くす。
「…貴様……何故レミリアを……!!」この不条理な局面を前に、俺は男に問うた。
「…すぐにわかるさ。…坊主、せめて愛しのレミリアちゃんに別れのキスしたらどうだ?」
「…貴様ごときが…レミリアの名を…口にするな!!」
あの男の一言を引き金に、俺の怒りは頂点へと達した。

俺の怒りは自らを覚醒させる力となり、強大な力を生み出した。
俺の目が真紅の血の如く赤く染まっていく。抑えられない衝動が、
全てに裁きを下せと命じている…!

「…ふっ……」謎の男はその光景に鼻で笑った。
「くっ…何だあいつは!!……者ども、やれ!!」
「罰を下す……覚悟はいいか、断罪の時間だ……!!」

憲兵達は俺に襲いかかってきた。だが俺はその者たちを蹂躙し、
完膚無く撃退した。この間に何度も敵の攻撃は受けていたはずだった。
だが、痛みすら感じない。…俺の怒りが、身体を突き動かす。
まるで自分が人でなくなっていることは、自分でもよく分かっていた。
そして何人もいた憲兵を全て撃退し、謎のローブ男だけになった。

「ぐあああああ!!!!」憲兵の声が、静かな夜空に響き渡る。
「…次は貴様の番だ。…貴様の罪は重い……!!」俺は謎の男を睨んだ。
「…少なくとも、そうだな。だが…」男は、不気味なほどに冷静だった。
「うおおおおおおお!!!」俺は全ての思いを乗せて、あの男に渾身の
一撃をぶつけた…つもりだった。だが、あの男はそれを軽々と回避した。
「怒りの感情だけで、俺を倒すことは出来ない。…頭を冷やしてくるんだな。」
男は俺から離れたかと思うとすぐさま俺の腕を鷲掴みし、俺の腹に一撃を入れた。
「かはっ…!!…くぁ……」あまりにも重すぎる一撃に、俺は倒れるしかなかった。
…遠のいていく。…意識も…あの男も……レミリアも………。
「ま…て……きさ……ま………。…っ……」


俺の意識が戻ったのは、それから何時間経ったことだろうか。
太陽の光が誰かを祝福しているように…夜が明けようとしている。
気が付けば、レミリアは俺のすぐ傍にいた。俺は立ち上がり、
レミリアの前で頭を下げて跪いた。…顔向けなど出来ない。

「…レミリア……。…何もできなかった…無力な俺を許してくれ。」

当然、レミリアから返答は来なかった。だが、俺はレミリアから何かが
返ってきたような気がした。それは俺に対する慰めなのだろうか…?
ふと顔を上げてみると、レミリアの穏やかな顔が見えた。生前、ずっと
俺に見せてくれた笑顔そのものを浮かべているようにも見えた。
その光景から、俺の目から涙が流れているように思え、俺はすぐさまそれを拭った。
レミリアにこれ以上無様な姿は見せられない…哀しみの感情を必至に抑えていた。

「…だからせめて……神の下で安らかに眠ってくれ。」

俺はレミリアの頬に軽く口づけをした。これが俺のできる、最後のこと。
…俺はレミリアのペンデュラムを取り、それを自分の首に掛けて去っていった。
必ず、お前の仇を取ってみせる。…俺はペンデュラムを握りしめ、そう誓った。

俺は罪裁きのコヨーテ、その鋭利なる牙はあらゆる咎人をも罰する。

Fin.


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