【六道妖魔奇譚】第一話「謎の少女との邂逅」 

Lusone%28%e7%81%bc%e7%86%b1%e7%89%88%29 シルネオンさんからのエピソード

海導高校のごく一般的な男子高生
『江高陽輔(えだかようすけ)』。ある日、彼は
不思議な少女を発見する。白銀の髪と真紅の眼―
彼女は人にあらざる者『妖魔』である。

この出会いこそが、陽輔の運命を変える全ての始まりである。


「…はぁ、はぁ……」

暗闇の中、私はただひたすらに前へ進んでいる。目の前にある一筋の光を求めて、
痛む体を引き摺りながら。修羅王より賜った任務―まず冥界から出ること―この光の先が、
まさにそれである。「待っていろ、今そなたの元に……」前へ前へと進んでいくうちに、
さらに目の前が暗くなっていくような気がした……

そして自分の息の音も次第に聞こえなくなっていく……


この世には、人間界と冥界という二つの世界が存在する。前者は生ける者の住まう世界、
後者は死せる者の住まう世界。冥界に住まう者が正しき道を歩めば人間界へと再び降り立ち、
転生する。これはニホンの古くからの言い伝えであり、神話的な習わしも存在している。
海導高校に通う江高陽輔(えだかようすけ)は人間界、その中のニホンに住むごく普通の男子高生であった。

4月11日、桜も散りゆく時期となった頃。陽輔はいつもと変わらない朝を迎えていた。
校庭には海導高校の生徒がいつものように賑わっており、指導部の先生も大きな声を上げて
生徒に指導しているのも聞こえた。時間は8時16分、HRには充分間に合う時間だった。
…とはいえ、今日は日直ということでいつもより少し早い時間に登校していた。

「おはよう、みんな!」「よう、江高!」

…俺か?俺は江高陽輔、海導高校2年のごく一般的な男子高生だ。
特に変わったことはないんだけど、歴史が好きくらいかな?

「はい席つけー、HR始めっぞー。」担任の先生のいつも通りのけだるい声が教室を包んだ。
そして始業から終業までは何一つ変わらない、いつも通りの一日だった。
まぁ……この日が俺の運命を変える日になるとは思わなかったが…


今日の授業も何事もなく終わった。俺は日直だったので、学級日誌を書く必要があったが
最後が自習というだけで大したこともなかった。
日直より「今日はまさかの6限目・地理が自習。住良木先生、寝てませんでした?」
…これでよし、と!
「ふぅ~!ようやく終わったぜ~!!」今日は部活もないし早く帰ろう!
「江高、お疲れ!一緒に帰ろうぜ。」俺のクラスメートの石田が声を掛けてきた。石田は1年から
部活動関係で一緒の親友であった。他に一緒に帰る人もいないわけだし、一緒に帰ることにした。

「いやー、6限はホント眠かったよね-。まさか自習だなんてさ…」
「ははは…俺も寝ちまいそうだったぜ。」
「住良木先生、ガッチリ寝てたしね。何となくラッキーだったよ。」「だよな。」
日もそろそろ落ちようとしている中、俺と石田は他愛のない話をしながら帰っていた。
そして俺たちはいつものように喋りながら歩き、いつもの場所で別れる。
「じゃあな!」「おう!」

石田と別れて、帰路は俺一人になった。…そんな時、ふと思い出すことがあった。
―天那(あまな)、かつての俺のガールフレンドであり、彼女でもあった子のことだ。
ふとした瞬間に、彼女のことを思い出してしまう。あの時…天那はある放火事件で命を
落としてしまった。俺が知らせを受けて駆けつけた頃には既に死んでいた―あの時、
知らせがもっと早ければ…天那を助けられたかもしれない。もしあんなことがなければ、
今頃天那と一緒に帰っていたかもしれない。…彼女への心は、未練としてくすぶった状態だった。

俺は首を横に振った。ダメだ、また俺の悪いクセだ…もう過ぎたことだし少しは忘れないと……。
俺はしばらく過去のことを忘れ、何も考えずに帰ろうと決意した―その矢先だった。

カツンッ…

「うわ~っ!?」ついてないことに、公園に差し掛かったところの段差で俺は勢いよく転んだ。
幸い怪我はしなかったが、久々に味わう痛みが続いた。
「いたた…何なんだよオイ……」
…目を開けると、そこに一人の女の子が倒れるように木に寄りかかっていたのが見えた。
何だろう、この不思議な感じ…白銀の髪、頬に刻まれている真紅の模様、そして…獣の耳?
俺は自分の目を疑った。転んだせいで頭がおかしくなったんじゃないか…
しかし、何度見てもその美しく…可愛らしい子が自分の視界から消えることはなかった。

俺も最初は軽い気持ちだった。気持ちよさそうに寝ているのだろう…という割には顔や
服に傷が付いているし、そもそもこんなところで寝るだなんて考えつかない。少しは
見て見ぬ振りをして立ち去ろうと思っていたが、彼女から放たれているようにも思える
不思議なオーラが、俺の心の琴線に触れたような気がした。
「…仕方ないか、こんな子…放っておけないしな。」俺はその子を担いで、
とりあえず家に連れて行くことにした。


―陽輔の部屋―
俺は不思議な女の子をベッドに下ろし、彼女の様子を見ていた。
その子の年は自分と同じくらいか…それにしても何だろう、この子……。
普通の人間じゃない気が。どう見ても本物の獣の耳だし、人間の耳がない。
人間と獣のハーフだなんて、小説の世界のような種族がこの世にいるわけがない。
…だったら、彼女は何者なのだろう?そして現実では見慣れないあの装束…あの模様は、
彼女は何処からやって来たのだろう?

そう一人で自問自答をしている最中、俺のスマホに一通のメッセージがやって来た。石田からだ。
「江高、4限のノート借りたいんだけど~」
「何だよ…ノート取ってねぇのか……?ったく、仕方ねぇな……」
「今から?」とメッセージを返した。
そして間もなく、「今から、高校前の公園で待ち合わせしようぜ!」というメッセージが返ってきた。
「…やっぱりな。まぁ…すぐ終わるだろ。ちょっとこの子のことも心配だし、今日は使わないから
明日返してもらうか…」俺は公園に出掛けるための支度を始めた。よく知らないあの子を一人にしたら
何をしでかされるかは分からないが、どうせすぐ終わるだろうと高を括っていた。

「しばらく留守番頼むぜ。」そう言って、俺は出て行った。

―公園―
10分ぐらいかけて、俺は公園まで歩いて来た。しかし、石田の姿は見えなかった。
「遅いなぁ、あいつから呼んだってのに……場所違ったか?」「おまたせ。」
そう不安に思っていると、石田が何食わぬ顔でやって来た。
「ごめん、江高。ちょっとワケあってさ…」
「ったく、少し遅れるなら連絡くらい入れてくれよな?…ほら、これだろ?」
俺は自分のノートを差し出した。石田はにっこりして、ノートを受け取った。
「おっ、サンキュー!恩に着るぜ、江高!」
「こいつは明日返してくれたらいいぜ。じゃあ用も済んだし俺は帰るよ。」
俺はグッバイのサインをして別れようとした。あの子のことも心配だし、早く帰りたくはあったのだ。

「何だよもう帰るのか?今から遊ぼうぜ?」石田は不満げであった。せっかく部活がなくて
自由な時間があるというのに、退屈になるのは石田にとっても好ましくなかったのだ。
「悪ぃな、石田。今日は用事があるんだ。」俺は半ば嘘をついて、静止を振り切ろうとした。
「待ちな、このまま帰れると思うなよ…江高陽輔。」彼の声色が突然変わった。
石田らしくない、本気めいた言い方…それに対して俺は冗談として受け取っていた。
「お前…何言ってんだ……??」少しへらへらした笑みを浮かべていたその時、
突然蔦のようなものが地面から這い出て俺の手足を固く縛り付けたのだ。
何だよこれ…身動きできねぇ……!!俺は抜け出そうと抵抗したが、まるで手応えを感じなかった。

「もう生きては帰れねぇぜ……お前は最初の…六道王様の生け贄になるのだからなぁ!!」
石田の周りには霧のようなものが舞い、それに包まれると石田の姿は腕に鋭い刃のようなものを纏った…
化け物になっていたのだ!石田の変貌ぶりに、俺はただ呆然と見ているしかなかった。
「うっ…」その化け物は太く大きな手で俺の首を掴み、上へとあげて締め上げた。
その力に、今まで俺を縛っていた蔦のようなものはブチブチッと容易く千切れていった。
人間のものとは思えない力で首を締め付けられ、俺は悶え苦しむしかなかった。

「悲しいなぁ、お前の友達くんが化け物だったんだぜ?超ビックリで声も出せねぇか?!」
化け物はうすら笑いを浮かべながら俺に話しかけた。まるで石田を感じない、完全に別物であった。
「…しっかし、お笑いだよなぁ。俺もこうも上手くいくとは思わなかったぜ??
お前がアホみたい人を信じるからなぁ!!おぉ、江高ァ!?」俺の意識が次第に薄れていくのを感じると、
化け物は俺を地面へと叩き付けた。俺の善意は、尽く踏みにじられていたのだ。勿論石田は、
俺が馬鹿みたいに人を信じる奴だということは知っていた。だが俺のそんな性格を利用して
貶めようとすることはなかった…俺はこいつが石田ではない、石田に扮した化け物であると確信した。
「江高ぁ、ノート貸して欲しいんだけどぉ、おっけ~??…ハハハ!!お腹痛いッ!!」
「止めろ…石田を馬鹿にすんじゃねぇ!!化け物!!」飄々とした態度を取る化け物に、
俺は怒りをぶつけた。この際、どうなっても構わなかった。だが、親友を冒涜するような態度だけは
死んでも許すわけにはいかなかった。
「…うざってぇ。」化け物の態度は一変した。
「江高、俺はてめぇのこと馬鹿にしてんだよ。俺の言うことがまるで通じねぇとはおめでたい奴だな。
…仕方ねぇ、そんなに死にてぇならサックリ冥界に送ってやるよ!!喜べ!!」
そう言うと化け物は刃のような腕を構え、俺に襲い掛かってきた。
恐怖と衝撃で、身体が動かない。俺は死を覚悟して、目を閉じた―

―「イヤーッ!!」その時だった。何者かが化け物を背後から襲撃した。
目は閉じていたが、さらに続けて会心の一撃を加えているのも分かった。…俺は、助かったのか??
おそるおそる目を開くと、白銀の髪・純白の装束の女の子―あの子の姿があった。
「ちっ、邪魔が入ったか!!」化け物はその子の顔面めがけて一撃を浴びせようとした。
それに対して首だけですぐさま回避し、反撃を与える―そして素早く数撃も与えた。
あの子、尋常じゃなく強いことは俺でもすぐに分かった。
「速い…!あいつタダ者じゃ…。…!?あの模様……白銀の髪と真紅の眼…まさか」
化け物は勘づいていた。

「修羅の銀狐―百戦の中で錬磨し、数多の修羅を越えし戦の鬼…『修羅王宮天雛』!!」

「そなた、無事か?」「お、おう。助かったよ…」天雛とかいう、謎の女の子は
すぐさま俺の元へと翻って俺を心配してくれた。だが、彼女は身体を震わせ跪いた。
というのも、彼女は起き上がってからというものの充分に回復をしていない状態だったのだ。
汗が滴り、喘ぐように苦しげに息をしている。
「だがそんな身体でいつまで持つかな?!ふっ、やるとは思ったがせいぜいひとときの希望だったか……
このまま二人仲良くあの世へ行きやがれ!!」化け物は隙を狙って俺たちに襲いかかってきた。
こんな状況、俺には何も出来ない…今度こそ死を覚悟して目を閉じた。

…だが、俺に痛みは感じなかった。目を開けると、あの子が俺を庇って一撃を腕で受け止めていた。
「…てめぇ。」「触れさせない。主のため、そなた、生かさぬ。」
化け物の腕を振り払うと、すかさず強力な一撃を顔面にお見舞いした。
その一撃の重さに化け物は仰け反る。するとその子はこの機を逃すまいと、今度は渾身の蹴りを浴びせた。
「うわあぁぁ!!!」化け物はあり得ないほどに飛ばされ、木へと激突した。手数は少ないとはいえ
その一撃は致命傷にもなっていたのだろう、化け物は再起不能だと感じた。
…そんな中、あの子は追い打ちをかけるように化け物の首元を掴む。
「くっ…てめぇ何する気だ…?」
「修羅の導きあらんことを。」
そう言うと、化け物を木に思いっきり強打させた。彼女の意外な制裁の下し方に、
俺は少しばかり驚いた。…すると化け物はみるみる姿を変えていき、そこから石田の姿が見えた。
あの化け物は、石田に取り憑いたものだったらしい。
「欺きの煩悩―下級憑依体か……やはりここにも……。」あの子はそう言うと、
全ての力が抜けたかのように倒れ込んだ。
「お、おい!!大丈夫か…!?」俺はすかさずキャッチして木により掛からせた。

「そなた……何故、私に構う?」その子は俺に問うた。
「決まってんだろ、こんなボロボロな子…放っておけるかよ…」俺はその問いに対して、
少し恥ずかしげに答えた。ちょっと青臭い答えではあったが、それに対してその子は
笑みを浮かべたようにも思えた。
「…そうか。…そなた、名は?」
「俺は陽輔、江高陽輔だ。お前は?」
「…修羅王宮天雛(しゅらおうぐうてんすう)。」
「…しゅらおうぐう?」
「天雛、そう呼べ。」
「おう、分かった。」
俺と天雛との距離は、次第に近くなっているようにも思えた。謎の少女「修羅王宮天雛」、
俺は彼女に遠慮とかそういうのは感じなかった。この感覚はかつて傍にいた天那との日々を
思い出すものでもあった。姿も何となく似ている…天雛とは今日初めて会ったというのに
俺は知らずに天雛と天那を重ねて、上の空で白昼夢めいたものを見ていた。

…で、気がつくと俺の肩にずっしりと圧を感じた気がした。無防備にもすーすーと寝息を立てる天雛が、
そこにあった。俺の肩と天雛の肩がぴったり当たっている…俺は恥ずかしさのあまり酷く赤面した。
「…ったく、仕方ねぇ奴だな。少しばかり俺の家で休んでいてくれ。天雛。」
夕陽が落ち始めている頃、俺は天雛を背負って太陽の方へと進んでいった。

そんな俺と謎の少女の不思議な出会い、それが運命を変える全ての始まりであることを俺はまだ知らなかった―


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