【六道妖魔奇譚】第二話「地獄の紫狼との対峙」 

Lusone%28%e7%81%bc%e7%86%b1%e7%89%88%29 シルネオンさんからのエピソード

江高陽輔と修羅王宮天雛、その出会いは突然だった。
妖魔である天雛は人間界にその身を維持すべく
陽輔と契約することになる。そして天雛は陽輔に
六道と妖魔の話を始める―

…そんな中、もう一人の六道の妖魔が動き出していた。


俺は江高陽輔(えだかようすけ)、海導高校2年の男子高生。
ある時、俺は謎のかわいい少女を発見した。名前は修羅王宮天雛(しゅらおうぐうてんすう)。
その子はとても強く、俺に襲いかかってきたバケモノを一瞬で退治したんだ。
…で、俺はそんな子を家まで連れて行ってるわけだ……


俺は天雛を家まで連れていき、休ませてあげることにした。幸い、今日は母さんが遅番なので
家には誰もいない。まぁつまり、天雛を…母さんにとって知らない女の子を担いで
帰ってきたという事実はバレないということだ。そんな天雛はあんな技を放っていた割には軽く、
そこまで苦労はしなさそうだ。とはいえ、しきりに聞こえる寝息が俺をドキドキさせるのは
ちょっとばかり複雑だ。

歩くこと十分弱、俺の家まで辿り着いた。そういえば、用事がすぐ終わるものだと思って
鍵をかけ忘れていたんだった。そんなことはあり得ないだろうが、もし天雛が鍵の開け方を
知らなかったら、天雛の助けが来ないまま死んでいた…もしくは助かってもこの扉は無事では
なかったのかもしれない。本当に、こればかりは運がよかったのかもしれない。
そして俺は2階にある俺の部屋まで担いでいき、ベッドに寝かせた。天雛をここまで運んだのも、
これで2回目である。俺がイスに腰掛けた途端、疲れがドッとやって来た。
「はぁー、疲れたぁー。今日も色々あったぜ。」俺は大きくあくびをした。
本当に今日は色々あった。天雛って子に会ったり変なのに襲われたり。そんなこと普通じゃあり得ない。
今日はいつもとは違っていたのだ。…と色々考えたかったが、考えるだけ無駄なことは既に知っていた。
「…ま、とりあえずメシでも作るか!」今日は母さんが遅番なので先に夕食を作っておくように
言われていたのだ。というわけで、俺はキッチンの方へと向かった。しかし…母さんが天雛を見たら
どう思うんだろうな。まぁ、そんなことはいいか。考えても仕方がない。
俺はドアを半開きにして部屋を出て行った。


俺がキッチンに入ると、母さんからの置き手紙があった。「陽輔へ。今日も遅くなるから
夜ごはんよろしくね!―隆子(りゅうこ)」と、似顔絵付きで書いてある。今日はシチューに
することにした。冷蔵庫から野菜を取り出し、それらを切って煮込む。その間、俺はずっと
天雛のことを考えていた。俺は、かつて親父が言ってたことが何か引っかかったのだ。
「何だかなぁ、銀の狐―その話は聞いたことあるけど…あの子がソレなのか?親父が
ずっと話してたあの話、それがもし本当なら…」俺は親父との思い出を振り返っていた。
…にしても懐かしいなぁ、確かガキの頃だったか…

―過去―
「陽輔、お前は銀の狐を知ってるか?」親父は俺に問うた。
「ぎんのきつね?お父さんは見たことあるの?」
「あるさ。そうだな…お前よりずっと大きくて珍しい狐さんだ。」
「すごーい!!ぼくもきつねさん見られるかな?」親父は笑顔で俺の頭に手を乗せた。
「いつか見れるさ。『赤眼の銀狐』、そいつに会えたら陽輔の運命・人生は必ず変わる。
大きくなったら父さんと探しに行こうな?」
「うん!約束だよ!!」

そんな記憶もあったなぁ、俺は昔の自分と熱弁してくれた親父の姿に笑みを浮かべていた。
「…すけ。」何か聞こえた。俺の名前を呼んでいるのか…?
「陽輔。そなた、何してる?」俺の隣から声が聞こえた。俺は一瞬ビクッとして現実に戻った。
母さん…じゃなくて、天雛が隣に居たのだ。
「おお!?いつの間に!?」驚きのあまり、天雛から逃げるように遠ざかった。
いや、驚かない方がおかしいくらいだ。あれほどぐったりしていたのに、何事もないように
元に戻っていた…人間では到底考えられない回復力なのだ。
「お前…さっきまでぐったりしてたじゃねぇか!」
「そうだ。だが、そなたのおかげだ。」俺の頭の上に疑問符が飛び回っている。
俺、大したことやってないのに…そなたのおかげって言われても仕方がないのだ。
「私は妖魔、人にあらざる者。妖魔、これ、人の煩悩と精力を喰らい生きる、冥界の番人。」
突然、天雛は小難しいことを語り出した。未だに疑問符は消えない。
「…つまり?」
「私、ニンゲンではない。そして陽輔、そなたの精気、頂いた。」
…あまりにも衝撃的な一言だった。ニンゲンじゃない…?俺のセイキを頂いた…?
天雛から放たれたこの一言は、この場を一瞬で凍てつかせるほどの衝撃だったのだ。
「な…何だって!?」大声が出てしまった。それに対して、天雛も困惑気味だったのだ。
「じゃ…じゃあ俺、しん…」俺はてっきり、自分が死んだものだと勘違いしていた。とはいえ、
自分の身体には触れられるし包丁も鍋も持てた。しかしあんなこと言われたらそう思いたくもなる。
いささかオーバーなリアクションだが、自分ではこれが正しい反応だと思っていたのだ。
動揺が止まらない…
「案ずるな。そなた、生きている。そして死ぬわけではない。」それを聞いて、俺はホッとした。
「…で、妖魔ってのは冥界から来た…んだろ?じゃあお前は俺だけにしか見えねぇのか?」
「否。私の姿、誰でも見える。」
「ちなみにだが、冥界とか妖魔とか…何でここに来たんだ?」
「……。…長くなりそうだな、詳しくはよそで話す。ついてこい」
「あ、待てよ…!」天雛はそう言うと家を出て行った。俺も天雛の言う通り、
充分に煮たシチューの鍋に蓋をしてついてくることにした。気付けば日はすっかり落ちている。
街頭に照らされた天雛を追うことしばらくして、俺たちは神社へとやって来たのだ。

「…なんだ、神社か。なぁ天雛、こんなとこで何を…?」
俺には天雛の意図を汲み取ることはできなかった。神社の鳥居をくぐったところで、天雛は口を開いた。
「冥界と現世をつなぐ社。私、ここからやって来た。」俺は深追いすることなく、
ただ何となく聞いていた。これ以上聞いても、余計分からなくなるのは分かっていたからだ。
「ところで陽輔。そなた、六道(りくどう)知っているか?」
「六道?」親父が話してたような気もするが、俺はそれに関してほとんど知らなかった。
そう思っていると、天雛は話を続けた。
「六道。これ、冥界にある六つの世界。「天道」、「人間道」、「畜生道」、「地獄道」、「餓鬼道」、
そして「修羅道」の六つ。私、その中の修羅道の妖魔。その六道の均衡、悪しき妖魔たちによって
乱されている。この世に現れ、生ける者を脅かすだろう。」
俺はピンと来た。…もしかして今日襲いかかってきたあいつも!?
「じゃあ、さっきのあいつも…」
「そうだ。」そして天雛は俺の方を向いて、俺の目を見ながら言葉を続けた。
言葉のない時でさえも、赤い眼差しが俺に何かを訴えているような気がした。
「妖魔を倒し、再び均衡を保つ。これ、私の役目。そのために陽輔、そなたが必要だ!」
「え!?俺の…?」俺は唐突すぎる告白に驚きを隠せなかった。今日会ったばっかりの子に
好きですって言われることと変わらないからだ。正直それもあって、俺は決断が出来なかった。
…そんな時、天雛を見た途端にあいつの…天那の顔が浮かんだ。天那が俺に微笑んでいる気がした。
「信じて」そう言っている気もしたのだ。…俺はそれを受けて、決断を下すことができた。
「…分かった。力を貸すぜ、天雛。」
「陽輔…!!」
「一応助けてもらった身だしな。受けた恩は返す、これが恩返しになるかは分からないが。
…しかもあいつに似てる気がしたんだ。どうせハナから逃がすつもりはないんだろ?」
天雛は裏のない微笑みを浮かべた。そして天雛は俺の方へ手を差し伸べた。
「礼を言う。運命、共にしてくれるか?…陽輔。」天雛は少し照れくさそうだった。
それにつられて俺も、顔を赤くした。そして決意を改め、俺は差し伸べられた手を握った。
天雛、俺はお前と運命を共にする。お前のために…天那のために!
「よろしくな、天雛。」

こうして俺は、正式に天雛の契約者となった。正直、俺もよく知らない子の厄介事に
付き合うことになってアレだけど…まぁ、何か放っておけないよな。


―翌朝―
あんな奇妙なことが起きた夜も過ぎたが、俺はいつも通り学校に通った。
天雛は俺を守るだとか言ってついて来ていたが、心配しすぎだと言って、とりあえず
どっかで待ってろということになったのだが…屋上で待つとのことらしい。…屋上、か。

で、教室の様子はというと昨日と全く変わっていなかった。まるで夢でも見てたんじゃないかと
思わんばかりだ。俺が席について色々整理していると、前から石田がやってきたのだ。
「やっほー、江高!」石田の相変わらずの挨拶だ。昨日バケモノだった身とは到底思えない。
「お、石田。随分元気だな。大丈夫だったのか?」
「平気だよ、昨日色々あったけど…」どうやら夢じゃないらしい。
俺は石田からさらに詳しく話を聞くことにした。

「んと、昨日は…可愛い子に呼び止められて、腕を掴まれて…それからはよく覚えてない。
で、気付いたら公園で寝てたみたいなんだ。」放たれた言葉は異常なことだった。
「その間何してたか覚えてないのか…?」
「そうそう。しかも「りくどうおう」が何とかって言ってたっけ…何のことだか。」
りくどうおう…?確か昨日、石田…バケモノが言ってた気がするが…うーんと唸る俺と石田、
そんな中、後ろからぬっと誰かがやって来たのだ。
「江高くん、石田くん。その話、詳しく聞かせてくれ。私もいささか興味がある。」
黒いスーツを着た目にクマのある男…俺と石田の担任の先生「住良木真人(すめらぎまさと)」先生だ!
何故先生が…と思いながら、石田は先程の話をまたし始めた。

「…なるほど。そういうことか。」住良木先生はメモしていたノートとペンを置いた。
先生には既に見当がついていたらしい。
「恐らく冥界からの者―妖魔の仕業だろう。」
「妖魔?」俺は妖魔の存在を知っていたが、石田にとっては初めて聞く言葉であった。
「人に非ざる者のことだ。」
「先生も妖魔を知ってるの?」
「ああ、師匠に教えて貰った。江高くん、私は師匠を…君のお父さんをよく知っている。
知り合いでね、色々教えて貰ったよ。」
それは俺にとっても衝撃の真実だった。俺の担任の先生が、俺の親父と知り合いだったのだ。
先生は淡々と口にしたが、少なくとも俺にとってはとんでもない真実だった。
「江高悠一(えだかゆういち)、彼は有名なオカルトマニアで私はそんな彼の弟子の1人だ。
一応、彼とも長い。君が小学生の頃から私は彼を…師匠を知っている。」
「俺の親父と先生にそんな関係があっただなんて…」俺は先生との話に夢中になっていた。
少なくとも、住良木先生と俺が別のところで会っていた可能性も充分にあるからだ。
その熱中ぷりに、石田は取り残されて困惑気味な表情を浮かべていた。
「師匠からの忠告だ。最近、冥界と人間界に歪みが出来始めているらしい。
君たちも気をつけた方がいい……」その言葉は意味深長な余韻を残していたように思えた…


―その頃、屋上―
天雛は陽輔を待つために、屋上に居た。特段やることもなく、ただ壁によりかかって
仮眠を取るだけだった。…そんな静寂の中、地を突くような音が聞こえた。
天雛は耳を震わせ、静かに目を開ける…天雛の目の前には紫の長い髪をした男が
―天雛自身と同じような者が目の前に立っていた。
「…何者だ。…妖魔か?」
天雛はとっさに構えた。獣の耳…間違いなくこの男は妖魔だと確信していた。すると男は
持っている錫杖を前に突き出した。…そこには微かにバチバチと電気を纏っているのも感じた。
「!!」「雷撃(いかづち)よ!!」
すると彼の錫杖から雷鳴が轟き、稲妻が地面を走った。事前に危険を察知していた天雛は、
雷撃を間一髪のところで避けることができた。
「やあっ!!」そして天雛はすかさずその男に向かって拳を奮った。だが、その拳は
男の眉間一つ動かすことなく止められてしまったのだ。あの余裕と力は、タダ者ではない…
「ぬるいな。その一撃、俺に見切れぬとでも…?」男は掴んだ手を振り解き、
瞬時に天雛の腹部めがけて拳を入れた。
「ぅあっ…!!」
天雛はその強打と苦痛に怯んでしまい、その隙に男はさらに一撃、拳を振り上げた。
天雛はその一撃でバランスを崩し、その場で跪いた。

「…強い。そなた、ただの妖魔ではないな…?」まだ2撃とはいえ、天雛にとっては
かなり大きなダメージとして響いていた。天雛は腹部の痛みに悶えながら、肩で息をした。
「俺の名は閻魔王宮煉浄(えんまおうぐうれんじょう)。修羅の銀狐よ、
閻魔王様の命によりお前をここで始末する。」煉浄は指の骨を鳴らし、天雛を見下げた。
「始末、だと…?」
「俺は冥界と人間界の均衡を乱す者を屠りに来た。…悪く思うな。」
そう言うと、煉浄は再び天雛に襲いかかって来た。衝撃を放った拳が容赦なく振り下ろされる。

地獄道の宮、煉浄―この男も目的は自分自身と同じである…天雛は確信していた。
だが、彼は修羅道の動向を知らないが故に、修羅道の妖魔も見境なく屠ろうとしている。
いずれにせよ、この形相から今更聞く耳を持たないことは既に分かっていた。ならばこちらも、
武力を行使して煉浄を黙らせるしかない―天雛はそう思い、攻撃の隙をかいくぐって反撃した。
たとえ無駄がなかったとしても拳を空かしたその直後に、隙が現れる。
天雛はその好機を逃すまいと、腹部に渾身の蹴りを浴びせた。
その衝撃に怯み、その衝撃が煉浄を後ろへと引き摺る。
「くっ…!」煉浄は血を拭い、再び錫杖を手にした。すぐ目の前に、天雛が迫っている…
「(やるな…だが!!これしきで俺は怯まん!!)」煉浄は体勢を立て直し、錫杖を前に突き出した。
すると錫杖から再び雷撃が放たれ、それは天雛に直撃した。あと数歩のところだった。
その一撃に天雛が仰け反ったところを煉浄はすぐさま蹴り飛ばし、その衝撃で天雛の身体は
フェンスに直撃した。金網のフェンスは直撃と共に大きく歪み、辺りに轟音を響かせた。
「かはっ…!」クリティカルヒットした天雛は限界であった。なす術もなく、
フェンスに寄りかかったままただいたずらにずるずると力無く崩れていった。
煉浄は天雛の胸ぐらを掴み、トドメを刺そうと拳を振り上げた…

「煉浄!!止せ。」「…翔馬?」その時、後ろから男の声が聞こえた。…契約者の翔馬だ。
「これ以上の交戦は無意味だ。退くぞ。」煉浄は翔馬の声を耳にして、天雛をその場に降ろした。
だが、命令とはいえ煉浄も納得はいっていないように見えた。この者は妖魔、
煉浄自身の―地獄道の敵だと認識していた故だ。
「いいのか?彼女は妖魔、俺たちの敵だ。」
「他を操り殺めなければやる必要はない。捨て置け。」翔馬は戻っていった。
煉浄もまた、天雛にトドメを刺すことなくその場を立ち去っていった。


あの時、屋上に大きな音が響いたことは俺自身の耳にも届いていた。
屋上で待っている、その言葉を覚えているので、きっと天雛がしでかしたものだと思っていた。
ということで、その真意を確かめるべく…迎えに行くべく屋上へと向かった。
天雛…今頃変なとこに行ってなきゃいいんだが…正直、あの騒がしさと相まって心配の方が勝っていた。
そして屋上へ着いてドアを開けると、奥で天雛が足を崩してフェンスに寄りかかっているのが見えた。
…だが様子がおかしい。遠目でもしきりに…苦しそうに呼吸しているのが分かった。
そして口元には、血が噴き出ていた…その光景に、俺は一瞬固まってしまった。
「天雛!!」俺はすぐさま駆け寄った。しかし返事が返ってこない。

「天雛!!しっかりしろよおい…!!」…俺には何が起こったのか分からなかった。
あれほどの天雛が、こんなことになるだなんて…その真相を突き止める必要はあったが、
今の俺には天雛に呼びかけることしか頭になかった……


このエピソードの登場人物