とある令嬢の茶会 

Missing thumb 日溜りのハコニワさんからのエピソード


「■■?…えぇ、存じ上げていますわ…とても…」

あれはいつのことだったかしら。
屋敷に招いた人間を遊んだ後、そう、ご遺体の処理をしていた時でしたわ。
月に照らされた淡い金髪に血の様に赤い右目が印象的なあの方。
誰かから逃げるように怯えたその瞳はとっても美しく見えてしまった。
嗚呼、ワタクシはその瞳に恋をしてしまったのでしょうね。

それからの出来事は昨日のことのように覚えていますわ。
怯える彼をワタクシは屋敷に招き、そして匿いました。
彼の最初の言葉は「ありがとう」。
彼の次の言葉は「どうして?」
困惑しているような表情にまだ恐怖に怯える赤色、とてもとても美しかった。
その赤がワタクシの毒によってどう歪むのか…毎晩そう考えていました。

「…でも、彼はワタクシの手の届くような殿方ではありませんでしたわ」

何度お茶に毒を盛っても彼には効かなかった。
何度毒を変えても無理だった。その赤が恐怖から動くことはなかった。

「ワタクシはようやく出会えたと思いました。ワタクシの毒で逝かない殿方…
たとえ手が届かなくてもいい、この綺麗な宝石をずっと傍に置き、しまっておきたい、そう…毎日考えていました」

でも終わりはすぐに訪れてしまいました。
彼が消えてしまった。
…この世から無くなってしまった、とでも言うのでしょうか。
瞳と同じ赤に染まった白衣を着た殿方からは彼が感じられなくなってしまった。
代わりに感じたのはそう、アナタの気配。
冷たくぬくもりすら凍えて死んでしまいそうな気配。

ワタクシは恨みましたわ。
どんな理由があれど彼を永遠に失ってしまった。
何故彼を失くさなければならなかったのか。そして何故アナタが此処に残っているのか。
いいえ、その“身体”が残っているだけでもワタクシにはいいのです。
一夜限りの夢でもよかった。ええ、夢の様に消えてしまった彼の人格。

「リコリス…ワタクシはアナタを許しはしない」
「別に…許してほしいなんて思ってないさ。■■が壊れた原因を作ったのは僕なんだから」

嗚呼、彼と同じ声で喋らないで。その声は彼だけのモノだったのに。
甘く、夢のような声色。それは今では冷たい悪夢のような声色に変わってしまった。

決して返せとは言いません。ただ、ワタクシはアナタを許さない。


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