とある医師の話 

Missing thumb 日溜りのハコニワさんからのエピソード


ほぼバラバラになったマリアの遺体を彼は引き取り、今でも集めた遺体を組み合わせ再生を願い、処置をしている。
そこにルナリアが死体からキリングドールを作ったと聞き彼は彼女に頼んだが「無理だ」と断られてしまう。
死んでから時間がたってしまった。腐敗が進んでいる、こうなってしまってはどうすることもできない。
医者のお前ならばわかるだろう?そう魔女は言った。

彼は絶望したが自室に帰ると無数のチューブに繋がれ、
薬品の中に浮かぶマリアのほほえみを見てその絶望はどこかに吹き飛んだ。
もっと遺体を持ってこなくては。
彼女に合う遺体はなかなかみつからない。それもそうだ。一般市民であった彼女に合う体形のものなどアークスにはないのだ。
歪な怪物になっていく彼女を見て悲し気に彼は呟く

「ああ、あの時私が傍にいてやれば…」

あの晩、彼は急患で外に出ていた。その間にあの殺人鬼はマリアを殺めた。
ただ幸いなことにマリアの遺体はひどく綺麗で、あの殺人鬼の手際の良さが見えた。
腐敗していく身体に、綿を詰め、瞳は生前と同じ色のガラス玉をはめ込む。
そして腐敗がこれ以上進まないように特殊な薬品に沈め、チューブで身体の隅々まで薬品を染み渡らせた
。嗚呼これでも彼女は目を覚まさない。その柔らか唇に口付けをしたい。その温かい声をもう一度聞きたい。
そして生前上げられなかった式を挙げよう。
見てくれ。君のために用意した純白のウェディングドレスだ。
はやく彼女に着せて上げたい、しかしその薬品から出ればたちまち身体は腐り、溶けてしまうだろう。
彼は冷たいガラスにキスをする。
ただ頭の中で純白のウェディングドレスを身にまとった彼女を思い浮べ今日も一人眠るのだ。

彼女を殺した張本人は無邪気に笑い、そして今日も人を殺める。アレは悪意の塊だ。
アレはヒトではない。アレは死そのものだ。
アレさえ手に入れられれば彼女を蘇らせる方法が見つかるかもしれない。
幾度となく近づき、アレの興味を引く。しかしアレの目に私が映ることはない。
アレが唯一その血のように赤い瞳に移す人は食人鬼の女性。
何度拒まれようと執拗に追いかけまわし、そしてその凶器を向ける。

死に一番近いアレをはやく手に入れなければ。彼女が完全に腐り果て私の手から零れ落ちる前に。
魔女はだめだ。魔女と言っても所詮は人間だ。
人間になにができる。あのキリングドールだってアレが持ってきた新鮮な死体で。
まだすこし息があった少女の脳を取り出し機械の身体に植え付けたものだ。
現世と冥界を分ける川の渡し守の名を持つキリングドール。
記憶を消され、意志を制限され動く人形は今日もアレの傍にいる。
アレをまずどうにかしなければアレに近づくことはできない。今日も彼は遺体を持ち帰る。

すべては彼女のためだ。また会いたいと願う。純粋な願いだ。
またマリアの笑顔が見たい。またマリアの声が聴きたい。
嗚呼今度こそ指輪を渡そう。そして二人だけで式を挙げよう。
見捨てられたもの同士の結婚式。

さようならも言えなかった。嗚呼、痛かっただろう?
切り刻まれた身体、引き抜かれた内臓、ナイフを突き立てられた心臓。
すべてすべて彼は治した。
しかし彼女の魂だけはどうしても元に戻せない。
アレをどうにかすればきっと彼女は蘇る。
そうだ、そうにちがいない。死にもっとも近い怪物を殺そう。
そしてその魂を冥王に捧げ彼女は蘇る。

完璧だ、嗚呼そういってくれ。なあ、マリア…。


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