女神の操り人形 

Missing thumb 日溜りのハコニワさんからのエピソード

「邂逅」後の続き


「…連れてくってなに?」
「お前について色々調べるだけだけど」

そういうとみるみるうちに顔が青くなっていくベルナール。
逃げようと本を開く…よりも先にルナリアの呪術で拘束されてしまう。
観念したのかその場に座り込み抵抗を辞める。

「分かったよ。おまえらに着いていく。」
「それでよし。」

帰還の連絡を取ろうと端末を開いた直後、カイリがなにかを感じとり研究所の方を向く。

「どした?」
「ねぇ、なにか、聞こえない?歌?」
「歌?……そういや、なにか聞こえるな」

その歌声は研究所の中から聞こえてくる。澄んだ綺麗な歌声。
中に入り確かめたいがさっきの化け物がまだいる可能性がある。

「…注意して進もう」

***

中は暗く足元を照らすフォトンの光だけが頼りだった。
進むに連れ、歌声は大きくなりはっきり聞こえてくる。
女性の歌声だ。
しかしその歌詞はオラクルの物ではなかった。 
その歌にベルナールが血相を変え走り出す。

「お、おい!一人で行くなよ!」

角を曲がった所。
すこし灯りが漏れるその部屋の入口にベルナールは佇んでいた。
信じられない物を見るような表情で。

「…どうしたんだよ。」
「…嘘だ…」

震えた唇でやっと言葉が吐き出される。
視線の先には割れた培養管、ぶら下がった無数のチューブ。
その下に歌声の正体はいた。
頭から生える2本の角、継ぎ接ぎだらけの身体。
そして大きな獣の腕と両脚から生える翼。
ヒトとは思えない生物はこちらに気付くことなくただ歌い手続けていた。

「…クローヴィス…お前……」

ゆっくりとその生物に歩み寄るベルナール。
静止しても彼の足は止まらない。
すると生物もベルナールに気付き歌を辞める。
じっと彼を見つめ微笑んでいる。
そこに敵意など微塵もない。
ただベルナールに優しく微笑んでいる。
そして、その生物の元へたどり着くと
「………姉さん…」と、静かな声で、しかし怒りを含んだ声色でそう言った。
その言葉に生物は首を傾げ「あー、うー」と言葉を発する。

「…姉さんっ、て、」
「…こいつは、俺の死んだ姉さんのホムンクルスにしてキメラだ。クローヴィス…お前…ついに……!!」

近くにあった培養管のガラスに拳を打ち付ける。
その行為にビクッと怯えるキメラはその場から逃げようとするが足には鎖がついており途中で転んでしまう。

「…あっ、う…あ!」
「姉さん!」

後ろから強く抱き締める。
キメラは暴れる様子もなく、
ただ「あ、う、あ」と何かを話そうとしているようだ。
キメラの足を繋ぐ鎖を壊すとベルナールは自分の着ていた緑色のケープをキメラに着せる。

「…あー、うー?」
「姉さん、ここから出よう?」
「あ、っう、くろうー」
「クローヴィスはもう居ないんだ。だから、俺と一緒に…」

その言葉に少し悲しげな表情を見せ、そのまま目を瞑りベルナールから腕の中に倒れ込む。

「…どうする。そのキメラ、連れてくのか?」

アイオライトが口を開く。
連れてくのはいいがちゃんと受け入れてくれるか…
と言い掛けたがすぐに俺がなんとかすると言い直す。
守護輝士権限を使うらしい。

端末を操作し事情を説明するアイオライト。
口調からして相手はカスラだろう。
通信は切れ、ベルナールの方を向きアイオライトは一言

「行くぞ。もうキャンプシップが来てる」
「……ああ。」

眠るキメラを抱きかかえ研究室をあとにする。
研究所から出るとキャンプシップが既に待機していた。
医療班も来ていたらしくキャンプシップに乗り込んだみなの傷の手当てをする。
そして未だ眠るキメラはベルナールの服を掴み離さないようだ。
彼には聞きたいことが山ほどあった。
アークスシップに戻ればカスラからの質問攻めに遭うだろうがしょうがない。
異世界の魔術師、そして研究所のキメラ。

そしてクローヴィスという男。
これから良くないことが起きる、そう感じとりながらも今回の任務は無事完了した。


「Type-FN214………」
「う!」
「……姉さん。」
「う?」

…Type-FN214と書かれた首の番号を撫でると愛おしげにキメラの少女を見つめる。

「……君に名前をつけようか。きみは……」

「きみは、………………………………」

「…………………………」

「……そう、イイ名前ね…、ベル……」
「…、イイ名前でしょ?お姉ちゃん……」

“彼”もいたらきっと笑って言ってくれるはずだ。

“彼”は壊れてしまった。
“彼”を壊してしまったの。

ああ、女神の操り人形は一体誰なんだろうね。


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